機械図面: 公差の疑問 (寸法公差・はめあい公差)!
技術ブロガーのスーです。
本記事は、機械図面の公差についてです。
「公差ってそもそも何?」
「公差って何のためにあるの?」
「公差の中にも種類がある?」
「公差の書き方を教えてほしい!」
という疑問にお答えします
本記事を書く上で参考にした書籍↓
- 公差の目的
- 公差の種類(寸法公差・はめあい公差・幾何公差)とは
- それぞれの公差の記入方法とコツ(寸法公差・はめあい公差)
公差って何?
記事を書いている私自身社会人になるまで、公差の意味と公差の目的について深く理解していませんでした
製造業に関わるようになって公差の重要性を知ったのです
公差とは
図面の指示に従って部品を作成する際、どんなに精度よく加工しても支持寸法・形状に対してわずかな”ずれ”が生じます
一方設計者も30mmを指示したとして、ぴったり30mmを求めてはいません
例えば29.9mm~30.1mmであれば問題ない場合、この許される幅を公差といいます
公差を指示しなければ、30mmぴったりのものしか検査に通らなくなり生産できないでしょう
公差が影響するのは品質とコスト!
公差を決める際、厳しい公差を要求すればするほど部品の寸法精度が向上します
- 部品の寸法精度が上がり、品質が向上する
- 組立が容易になり、組立コストが下がる
- 加工時間が長くなるので、労働コストが上がる
- 高精度の加工費を使用する必要があるので設備コストが上がる
つまり、公差幅が大きすぎても小さすぎてもコストが上がるということです
機械設計者は、コストと品質が適切になるようなちょうどよい塩梅の公差を指示しなければならないのです
”ちょうどよい”って難しくない?
と思ったあなた鋭いですね
でもこればっかりは私も正解を知りません
各業界や会社によって設計する部品大きさ・形状・求められる精度が異なるためです
もしわからない場合は同じような部品を扱っている先輩や、上司に積極的に質問しましょう!
経験あるのみです
公差の種類
公差には三種類あります
この中で使用頻度が高いのは「寸法公差」です
15±0.2など、機械図面を見たことがある人なら必ず一度は見たことのある表記です
部品の形状や勘合の条件などによっては「はめあい公差」「幾何公差」も必要になってくるので理解は必須です
本記事では、寸法公差・はめあい公差について説明していきます
寸法公差(サイズ公差)って何?
寸法公差とは文字通り寸法に対して決められる公差です
表記例としては下記のようなものがあります
ここで一つの疑問が生まれます
なぜ全て(A)の±の対象値の公差ではだめなのでしょうか?
全て(A)の公差でも
- 各箇所の最大許容寸法と最小許容寸法がわかる
- 勘合部品でも基準寸法さえしっかり決めればクリアランスは確保できる
という二点を満たします
(B)(C)(D)の表記が必要な理由はズバリ…
図面のメッセージ性とわかりやすさです!
これは「寸法記入の疑問」の記事でも重要なポイントでした
では、下記の例を見てみましょう (嵌め合わせ部品の場合)
上の部品Aのφ20の穴と部品Bのφ20の突起部が勘合すると仮定します
ここで両部品の穴と突起部がφ20同士だと勘合できません
そこでまずクリアランスを設定する必要があります
今回はクリアランスの最低値を0.1最大値を0.4と設定します
プラスマイナス対称表記と2行表記は下記のようになります
- 穴側と突起側で基準寸法が異なるため、最大クリアランスと最小クリアランスの値が分かりにくい
- 勘合する部品ということがわかりにくい
- 基準寸法はどちらも同じ値なので、勘合する部品ということがわかりやすい
- 公差を見るだけで、最大・最小クリアランス量がわかる
上記の場合、設計者の意図が伝わりやすいのは2行表記ということがわかります!
図面を書く本人は、何の部品なのか・どの部品と勘合するのかがイメージできているため、公差の表記をある程度適当に行ったとしても、図面の意図がわかります
しかし、実際加工する人は図面以外の情報がない場合、図面の表記が全てとなります
誰がみても分かりやすい公差記入を心がけましょう!
普通公差って何?
図面に記載されている寸法には、全て公差の記載が必要となります
この課題を解決するのが普通公差です!
会社ごとに独自の普通公差を設定している場合もありますが、JIS規格・ISOの普通公差を用いる場合が多いです
寸法の普通公差
(単位: mm)
この表がJIS規格の寸法普通公差表です
精密機械設計では「中級(m)」が良く使われます
例えば、中級(m)指示のある図面で、
寸法2mmの場合 ⇒ ±0.1
寸法15mmの場合 ⇒ ±0.2
寸法150mmの場合 ⇒ ±0.5
寸法2500mmの場合 ⇒ ±2
となります
また表にない0.5 mm未満の寸法に対しては個別で指示を行う必要があります
角度の普通公差
※寸法の区分は、対象となる角度の短いほうの辺の長さを意味する
普通公差に該当しない箇所のみ公差を記入!
上の図における20.2の寸法は±0.1の公差が必要であったとします
普通公差の等級は中級指示であるとすると、20.2の普通公差は±0.2となります
従って、普通公差は適用できないため20.2には公差を記入する必要があります
一方で寸法30に必要な公差は±0.2、寸法40に必要な公差は±0.3であるとすると普通公差が適用できます
この例だと4つの寸法の内3つが普通公差のおかげで記入する必要がなくなるんですね!
はめあい公差って何?
はめあいって何?
”はめあい”とは穴と軸がはまりあう関係のことを言います
はめあいは穴と軸の二つがあって成り立つので、はめあい公差は穴と軸同時に決定されます
はめあい公差はなぜ記号で表す?
精密機器の場合求められるすきま量の精度は、マイクロメートルのレベルです
機械図面はミリメートルが単位となっており、はめあいの公差を寸法公差として記入すると非常に見にくい図面になる、かつ設計者の負担も大幅に増えます
そこでJIS規格では、マイクロメートルレベルの公差を分類して記号がつけられています
設計者はその中から最適な記号を選び、図面に記載します
はめあい公差の記号の意味
穴のはめあい公差一覧(一部抜粋)
(基準寸法: mm) (公差: μm)
軸のはめあい公差一覧(一部抜粋)
(基準寸法: mm) (公差: μm)
各表の列に記載される記号がはめあい公差の記号です(F7・g6など)
これらの記号はルールに基づいて決められています
はめあい公差の記載方法
はめあい公差の記載方法は
「穴 or 軸の直径寸法」 + 「公差記号」
(上図参照)
上の図の場合、
- 穴側: φ20H7
- 軸側: φ20g6
です
はめあい公差の決定方法!
では具体的にどのようにはめあい公差を決定するのでしょうか?
STEP1: すきま量を決める
はめあいで最も重要なことは、すきま量です
「そうは言っても適切なすきま量がわからない!」
となると思います
その際重要となるのは
- 精密機械でよく使用される穴・軸それぞれの公差の組み合わせパターンを理解する
- 自社(勤めている会社)での実績に倣う
です
STEP2: 穴基準で軸のはめあい公差を考える
- 穴加工用リーマ・検査用ゲージなどが用いられる場合が多いので、穴基準にしておけば器具の保有数を削減できる
- 軸加工は旋盤で行うので、刃物の送り量次第であらゆる公差に対応可
STEP3: 穴基準の公差組み合わせ表から適切な軸径公差を選択
上の表は、JIS規格に紹介されている穴基準での公差組み合わせ表です
つまり、「はめあい公差のおすすめ組み合わせはこれですよ」
とJISが示してくれているわけです
各基準穴に対して、複数の軸公差記号が示されるのははめあいの程度により選択できるようにするためです
選択手順としては
- 最左列から基準穴の公差ををH6~H10の中から決める
- それに適する軸公差を表の中から決定
これも言うのは簡単ですが、
「②の適する軸公差って結局どれなの?」
という疑問があるかと思います
これもすきま量を決める時と同じく、①よく使われる組み合わせ ②自社(勤めている会社の実績)が重要となります
はめあい公差の代表的な組み合わせ
大前提として勤めている会社において、実績のある公差があるのならばそれに倣うのが良いです
ここでは、精密機械においてよく使われるはめあい公差の組み合わせを紹介します
この表をみれば非常にシンプルになりましたね
穴径公差にH7が選ばれる理由は、穴の加工工具の市販性が高く、汎用性が高いためです
0.1mmレベルのすきまが大きな場合ははめあい公差は使わず、寸法公差で指示します
私はマイクロメートルレベルの精密なすきまが求められる部品の設計は行っていないため、寸法公差で指示しています
まとめ
- 公差が影響するのは品質とコスト!
- 公差は3種類 寸法公差・はめあい公差・幾何公差!
- 寸法公差の表記は、図面を見る人に設計者の意図が伝わるように!
- 公差だらけの図面にならないように普通公差を利用!
- はめあい公差は勤めている会社の実績や、JISの組み合わせ表を参考に決定!