金属の疲労って何?(※超入門)
技術ブロガーのスーです
本記事では、金属疲労とは何なのかを説明します
私は、旧帝大の大学院で金属疲労についての研究をしていました!
その時学んだことは、機械設計者となった今も生かされています
金属の疲労破壊は、様々な破壊モードの中でも明確な予測が困難であり、金属の疲労破壊による痛ましい事故も過去に起こっています
機械設計に携わる会社員さんや、携わるであろう学生さんは最低限の知識を身につけておきましょう!
「そもそも金属の疲労って何?疲れるの?」
「他の強度と何が違うの?」
「なぜ金属疲労による事故が多いの?」
「機械設計において、どのように判断すればよいの?」
などの疑問にお答えします!
- 金属の疲労とは何か?
- 金属の疲労強度が重要な理由
- 金属の疲労強度を表すグラフ
金属疲労って何?
金属材料に限らず、機械材料の物性の一つに“強度”があります
強度の中にも、引張強度・圧縮強度・座屈強度・ねじり強度・衝撃強度などがあります
金属疲労破壊とは、繰り返し荷重を受けることで破壊することを言います
金属疲労破壊で起こってしまった悲惨な事故はいくつか事例があります
その中でも代表的な事故は、コメット号の空中分解事故です
コメット号は1950年代にイギリスで使用されていた旅客ジェット機です
繰り返しの飛行によって、窓コーナーに亀裂が発生し成長、空中で破壊してしまうという痛ましい事故でした
その後も金属の疲労破壊による事故は後を絶ちません
金属疲労破壊の事故が多い理由
ではなぜ金属疲労破壊による事故は多いのでしょうか?
- 金属疲労強度はばらつく
- 疲労破壊は検出しづらい
金属疲労強度はなぜばらつくのか?
金属疲労強度がばらつく理由は主に3つです
材料の微視組織が不均一
結晶方位(応力に対する結晶構造の向き)や不純物の多さが、製造プロセスによってばらつきます
また製造プロセスがばらつかなかったとしても、部品ごとによってもばらつきます
引張強度などの一発試験と異なり、疲労強度はこれらの微視組織の影響を大きく受けるため金属疲労強度はばらつきやすいというわけです
表面仕上げの差異
疲労亀裂は応力集中部において発生し伝播することで破壊に至ります
従って、疲労強度は表面粗さに大きく影響されます
また、きれいに仕上がっていても大きな傷が一つでも入っていれば疲労強度は低下します
応力集中部位が様々
部品形状や負荷の方向によって、応力集中部は変化します
従って、繰り返し荷重に対して最も厳しい箇所が部品ごとに変化するので、疲労強度は同一材料でも大きく変化します
これらの理由によって疲労強度はばらつきます
従って、製品のテスト段階ではうまくいっていたのに疲労破壊が起こってしまったということが起こりえます
金属疲労破壊はなぜ検出しづらいのか?
破壊のプロセスにおいて変形量が少ない
例えば、ある部品が負荷が加わった後塑性変形していたらあなたはどう思いますか?
「もうすぐ壊れそう」
とか
「部品を交換しなければ」
と思いますよね?
一方疲労破壊の場合、ある時突然破壊します
それは疲労破壊は、その材料の降伏点以下の応力でも起こるため見た目にはわからないからです
人の目では気づかないうちに亀裂が伝播し、破壊に至ります
内部で亀裂が発生・伝播する場合がある
基本的には物体の表面に亀裂が発生することが多いですが、内部に大きな欠陥があった場合、内部で発生することがあります
表面に見えた亀裂はごく小さいものでも、内部では大きく成長している可能性があります
疲労強度って何?
では、材料における疲労強度は何なのでしょうか?
疲労強度とはズバリ、疲労限度です!
疲労限度の定義
「では金属材料の疲労試験は一生行うの?」
という疑問が生まれます
さすがに何十年も試験を続けるのは無理があります
そこで疲労限度の定義とは
疲労限度・・・10⁷回繰り返し荷重を加えても壊れない応力
と決められています
S-N曲線
疲労強度を表すグラフとしてS-N曲線があります
引張強度でいうと、応力ひずみ曲線のようなもので疲労強度を表す代表的なグラフです
縦軸は応力・横軸は繰り返し回数です
10⁷回で壊れなかった応力でプロットされた点には、上図のように横矢印を付けます
ここで注意点があります
それは鉄鋼材料やチタンなどの鉄金属と、アルミニウム合金や銅合金などの非鉄金属にはS-N線図に違いがあります
- 鉄金属: S-N線図は疲労限度において明確な水平折れ線を示す
- 非鉄金属: 明確な疲労限度を持たず、繰り返し数が10⁷・10⁸回を超えてもグラフは右下がりの傾向を示す
応力振幅・平均応力・応力比って何?
疲労を語る上でかかせないパラメータについて説明します
先ほど説明したS-N線図にも深く関係するので、ぜひ理解してください!
応力振幅
応力振幅はS-N線図の縦軸になっているパラメータです
平均応力
平均応力は応力波形の中心を表す
応力比
応力比は、変動応力が片振りか両振りかを数値的に評価するためのパラメータです
疲労試験ではR=-1はの両振り、R=0の片振りがよく用いられます
まとめ
本記事では、金属疲労とは何かについて解説しました
- 金属疲労とは繰り返し荷重を受けることで起こる破壊
- 金属疲労による事故が多い理由は、①金属疲労強度がばらつくこと ②疲労破壊が検出しずらいことに起因する
- 疲労限度とは繰り返し荷重を10⁷回受けても壊れない応力のこと
- 疲労強度を表す代表的なグラフとしてS-N線図ががある