機械材料の疑問

【図解!】鉄鋼材料の基礎~普通鋼とは?特徴・材料記号・材料選定~

suu

技術ブロガーのスーです

私の本業は大手製造メーカーの現役機械設計エンジニアです

本業では、CFRPやプラスチック材料を用いたスポーツ用品の設計・開発を行っています

当ブログは現役機械設計エンジニアである私が日々の設計業務で感じた疑問を勉強し、超絶噛み砕いて解説する技術ブログです!

図を用いてわかりやすく解説していきます!

鉄鋼材料は大きく分けて普通鋼・特殊鋼・鋳鉄の3つに分類されています

本記事では、普通鋼について解説していきます!

普通鋼の定義は?

種類は何があるの?

普通鋼の特徴は?

材料記号はどう決まっているの?

材料選定の方法は?

といった疑問を解決します!

鉄鋼材料の特徴や種類は下記ブログで解説しています↓

あわせて読みたい
【図解!】鉄鋼材料の基礎~特徴・種類編~
【図解!】鉄鋼材料の基礎~特徴・種類編~

普通鋼の定義と特徴

普通鋼とは、

炭素を含み、他の特別な合金元素を含まない鋼

のことを指します

特徴は二つあって、一つ目は熱処理を必要としない点です

熱処理は、条件によって特性が変わるため、熱処理に関する知識を理解しておかないと同材料を使用していても欲しい性能が出せないことがあります

その点、普通鋼は熱処理を前提としていないので、材料の選択・選定方法が非常にシンプルなので扱いやすい材料です

二つ目の特徴は、安価であるという点です

安価である理由はいくつかあります

  • 大量生産されている
  • 合金元素を含まないため、製造コストが抑えられる
  • 加工性が良いため、加工コストが抑えられる
  • 熱処理工程を必要としない

以上の理由から、安価であり入手性も良いという特徴があります

普通鋼の種類・分類

普通鋼にはどのような種類があるのかという点について解説します

普通鋼は上スライドに示したような種類があります

各鋼について簡単に解説します

一般構造用圧延鋼材(材料記号: SS)

材料記号SSから始まる一般構造用圧延鋼材は、主に引張強さのみを保証する鋼材です

入手性がよく、安価であることが特徴です

(※SS材に関しては下記で、詳しく解説します)

鉄筋コンクリート用棒鋼(材料記号: SR, SD)

鉄筋コンクリートとは、コンクリートの中に鉄筋を配置することで引張強さを高めた建材です

建材なので、機械設計ではあまりなじみのない材料となります

鉄筋コンクリート用棒鋼には、鉄筋コンクリート用丸棒(材料記号: SR)と鉄筋コンクリート用異形棒(材料記号: SD)の2種類に分かれます

材料記号はSD345などと表記し、数字は最低耐力(MPa)を表します

溶接構造用圧延鋼材(材料記号: SM)

溶接に適した鋼材です

溶接部は従来靭性が低下しますが、SM材は靭性が低下しづらいことが特徴です

材料記号はSM400Aと表記し、数字は引張強さを表します

末尾の記号は、種類を表し、A種は耐候性に優れ、B・C種は衝撃試験を行っているものになります

ボイラ及び圧力容器用鋼板(材料記号: SB)

SB材は、ボイラなどに使用されるため、高温環境下で使用される材料です

高温環境下での、強度を高めるために炭素の含有量が多いことが特徴です

材料記号はSB410と表記し、数字引張強さを表します

熱延鋼板・冷延鋼板(材料記号: SPH・SPC)

熱間圧延もしくは冷間圧延された材料です

他の普通鋼と材料記号の表記が異なり、SPCC-SDのように数字が含まれません

絞り加工のような塑性加工に用いられます

(※SPH・SPC材に関しては下記で、詳しく解説します)

普通鋼の材料記号

普通鋼の材料記号の意味について解説します

普通鋼の材料記号は、数字が含まれない場合と含む場合で二通りあるためそれぞれについて解説します

SS・SR・SD・SM・SD材の場合

① S

鋼であることを表すSであり、各材料によって変わることはありません

② 規格名

S: Structure、R: Round Barなどの頭文字で各普通鋼を区別します

最低引張強さ or 耐力

普通鋼では、化学成分ではなく、数字で最低引張強さか最低耐力を表します

SS材・SM材・SB材では最低引張強さ、SR材・SD材では最低耐力を表します

SPH・SPC材の場合

① S

SS材などと同様に、鋼であることを表すSです

②規格名

冷間圧延鋼板・熱間圧延鋼板・電気めっき鋼板を区別するための表記部分です

③ 種別

一般用・絞り用・深絞り用を区別します

絞り加工は、他の塑性加工よりも変形の容易さが重要視されるため、炭素量が低いです

④ 調質区分

調質区分とは、熱処理による硬さや加工性を区別するための記号です

A: 焼きなましが最も柔らかく、1: 硬質が最も硬いです

⑤ 表面仕上げ区分

表面仕上げを区別するための記号で、金属光沢のあるブライト仕上げとつや消しのダル仕上げがあります

普通鋼の代表例紹介

ここでは、普通鋼の中で機械設計に特に関わりの深い鋼を紹介します

それぞれの特徴や欠点、使用用途を知ることで設計に活かすことができます

その① SS材 (一般構造用圧延鋼材)

SS材とはズバリ…

“引張強さ”を主に保証する鋼材

です

先に紹介したように、材料記号は

SS400

のように表され、数字の部分は引張強さ(MPa)を示します

特徴は3つあります

SS材の特徴

入手性

平板・棒材・L字鋼・H型鋼など、様々な形状のものが容易に入手可能です

加工性

普通鋼は、炭素含有率が低いこと・他の合金元素を含まないことから、機械加工や溶接を容易に行うことができます

コスト

大量産されている事から材料自体の価格が低い事に加えて、熱処理が不要であったり、加工性が良いことから加工コストも低いことが特徴です

一方で、SS材にも欠点があります

SS材の欠点

化学成分の規定がほとんどない

SS材は、引張強さのみを保証する鋼材なので、化学成分の規定がほとんどありません(リンと硫黄の上限値に規定有)

従って、材料の化学成分はメーカーによって異なるため、加工性や表面仕上がりにばらつきがあります

炭素量が少ない

炭素量が少ないため、焼入れの効果がありません

従って、熱処理によって硬さ・強度を高めることができません

また、炭素量が少ないことに起因して、硬度や耐摩耗性が低いことも欠点です

SS材の化学成分は不明ですが、引張強さから炭素量を推定する事は可能です

引張強さから炭素量を推定する公式は下記です

炭素量≒{引張強さ(MPa)/9.8-20}/100

その② SPC材 (冷間圧延鋼板)

SPC材(冷間圧延鋼板)とはズバリ…

SPH材(熱間圧延鋼板)を冷間圧延した材料

です

材料記号は

SPCC-SD

のように他の普通鋼とは異なり、数字は材料記号に含まれません

数字が必要ない理由として、全てのSPC材において、引張強さ270 MPa以上という決まりがあるからです

また、材料記号の左から4文字目には、C(一般用)・D(絞り用)・E(深絞り用)の3種類あります

この3種類は炭素量によって、区別されます

SPCC(一般用) C: ≦0.15%

SPCD(絞り用) C: ≦0.10%

SPCE(深絞り用) C: ≦0.08%

絞り加工は塑性加工の中でも、変形の容易さが重要視されるため、炭素量が少なくなります

SPC材の特徴をまとめておきます

SPC材の特徴

塑性加工性

炭素量が少なく、塑性加工しやすい材料です

寸法精度が高い

冷間圧延で製造されるため、熱膨張や熱収縮の影響がありません

従って、厚みなどの寸法精度が高いことが特徴です

SPC材の欠点

厚みが限られる

冷間圧延で製造できる厚みには制限があります

この理由から、SPC材の厚みは0.1mm~3.2mmに限られます

SPH材よりも高価

SPH材を冷間圧延するため、当然SPH材と比較すると高価な材料となります

その③ SPH材 (熱間圧延鋼板)

SPH材(熱間圧延鋼板)とはズバリ…

熱間圧延で製造された鋼板

です

材料記号は

SPHC-SD

と表され、SPC材と同様に引張強さが270MPa以上という規定があるため、材料記号に数字は含まれません

C(一般用)・D(絞り用)・E(深絞り用)の区別に関しても、SPC材と同様に炭素量で区別されます

しかし、炭素量の規定量はSPC材とは異なるため、注意が必要です

SPHC(一般用) C: ≦0.12%

SPHD(絞り用) C: ≦0.10%

SPHE(深絞り用) C: ≦0.08%

SPH材の特徴をまとめておきます

SPH材の特徴

塑性加工性

SPC材と同様に、炭素量が少なく、塑性加工しやすい材料です

SPC材よりも安価

熱間圧延のみで製造されるため、冷間圧延を必要とするSPC材よりも安価です

厚みの選択肢が多い

1.2~14 mmの選択肢から材料を選ぶことが可能です

SPH材の欠点

SPC材よりも寸法精度が低い

熱間圧延時の熱膨張や熱収縮に起因して、SPC材よりも寸法精度が低いことが欠点です

普通鋼の選定方法の例

普通鋼の特徴を考慮して、あくまでも1例ですが、普通鋼の材料選択フローを作製してみました

①普通鋼 or 特殊鋼(合金)~強度・耐食性が必要かどうか~

強度・硬度などの力学的特性や耐食性が必要な場合は、最適な合金を選択しましょう

引張強さの具体的な数字で比較すると、SS材の中で最も高いものがSS540で引張強さ540MPaです

それに対して、S45Cは熱処理なしで約570MPa、焼入れ・焼き戻しすると690MPaです

また、耐食性は表面処理やメッキで向上させることも可能ですが、普通鋼にそこまでするならステンレス鋼を使用した方が良いというのが、私の見解です

②SS材 or SPC・SPH材~塑性加工するかどうか~

強度・耐食性どちらも必要なく、普通鋼を使用する事を決定した次のステップです

次は、塑性加工をするかどうかで選択しましょう

③SPC材 or SPH材~寸法精度が必要かどうか~

塑性加工する場合は、SPC材かSPH材のどちらかを選ぶ必要があります

作製する部品に寸法精度が必要かどうかで判断しましょう

まとめ

  • 普通鋼とは、炭素を含み、他の特別な合金元素を含まない鋼
  • 普通鋼の特徴①: 熱処理を必要としない
  • 普通鋼の特徴②: 安価
  • 材料記号の数字は、最低引張強さ(SS材,SM材, SB材)もしくは最低耐力(SR材, SD材)を表す
  • SPC材・SPH材は最低引張強さ270MPaで統一されているので、SPCC-SDのように材料記号に数字は含まない
  • SS材は最低引張強さのみを保証した材料で、入手性・加工性・低コストが特徴である
  • SPC材はSPH材を冷間圧延した材料であり、高い寸法精度・塑性加工性が特徴である
  • SPH材は熱間圧延で製造された材料であり、塑性加工性・低コストが特徴である
参考にした書籍
ABOUT ME
スー
スー
機械設計エンジニア(複合材料)
名前: スー(小学校時代からのあだ名)
年齢: 28歳
職業: 機械設計エンジニア
得意分野: CFRPを主とした複合材料によるものづくり
職歴: 5年
最終学歴: 九州大学大学院機械工学専攻卒
アイコン: ゴリラ(CANVAのAI画像生成で作成)
記事URLをコピーしました