【図解】機械設計・製品開発における材料選択の基礎②~材料選択のフロー編~
技術ブロガーのスーです
私の本業は大手製造メーカーの現役機械設計エンジニアです
本業では、CFRPやプラスチック材料を用いたスポーツ用品の設計・開発を行っています
当ブログは現役機械設計エンジニアである私が日々の設計業務で感じた疑問を勉強し、超絶噛み砕いて解説する技術ブログです!
図を用いてわかりやすく解説していきます!
本記事から3記事に分けて、機械設計においてどのような考え方で材料を選べばよいのかについて解説していきます
機械設計・製品開発における材料選択の基礎①の記事では”機械材料にはどのような種類があるのか”について解説しました↓
機械設計・製品開発における材料選択の基礎③では、強度設計における材料選択について解説しています↓
本記事では、
機械設計においての材料選択の基本的なフロー
について解説します
- 設計初期の材料選択のフロー(手順)
- 材料を選択するにあたって重要な考え方
- 材料を探す方法
- 複数ピックアップしたうえでの決定方法
① 部品に要求される性能を洗い出す
材料選択をするうえで最初に行うことは、部品・製品に要求される性能を洗い出すことです
私は本業では、スポーツ用品の設計・開発を行っているため、製品に関しては”目標製品重量”が求められることがほとんどです
例えば、軽さが求められていて、強度がそこまで必要のない製品に対して高強度の鉄鋼材料を使用した場合、求められる性能を満たせないことはわかると思います
このように、まずは要求される性能を漏れなく列挙し、大きな分類でよいのであらかた選ぶ材料の選択肢を絞ることが重要となります
前記事で解説したように、一言で機械材料と言っても無数に存在するので、この段階で如何に選択肢を絞り込むことができるかが重要となります
具体例を用いて、解説します
例えば、釣竿を例に挙げてみましょう
求められる性能として、主に3つあります
A 長時間使用できる軽さ
B 魚を釣り上げても折れない強度
C 海水環境下の使用でも劣化しない
A: 長時間使用できる軽さ
軽さが求められる製品であるという点で、比重が比較的大きい鉄鋼材料やセラミックスは選択肢から消去できます
この段階で、アルミなどの非鉄金属かプラスチックのどちらかに絞り込むことができます
B: 魚を釣り上げても折れない強度
この段階では、求められる強度がどのようなものか正確にわかっていないので決めきることはできません
しかし、釣竿は曲げて使うものなので、”曲げ強度”が重要になることは想像すればわかると思います
Aで求められる性能として挙げた”重量”のことを考慮すると、比強度(単位重量当たりの強度)が重要となります
従って、強度面では、比曲げ強度が高ければ高いほど適している材料と言えます
C: 海水環境下の使用でも劣化しない
海水環境下の材料の劣化といえば、”錆び”が最重要課題として挙げられます
金属材料は表面処理などで対策も可能ではありますが、錆びます
従って、Cの要求に対してはプラスチックの方が適していると言えるでしょう
結論
ここまでのA,B,Cをまあとめると求められる材料は、
比重が小さく、比曲げ強度が高い、錆びない材料
です
プラスチックは比重が小さく、錆びません
従って、プラスチックの中で最も曲げ強度が高い材料を選べばよいということになります
炭素繊維でプラスチックを強化した複合材料であるCFRPが釣竿の材料には適していると言えるでしょう
このように求められる性能を列挙し、論理的に考えることで材料を選択することができます
② 4Mの視点で材料への要求を明確化
ここからは、更に細かい要求を考えていきます
この段階で重要な考え方として、4Mという考え方があります
4Mとは
Man (人)
Machine (機械)
Material (材料)
Method (方法)
のMから始まる4つの視点から考えると要求を整理しやすいです
これも釣竿を具体例に考えてみましょう
前提: CFRPを使用する
①部品に要求される性能を洗い出す段階で、CFRPを使用するのが良いという結論が出たので、CFRPを使用するという前提で具体例の解説を進めます
CFRPにも弾性率の違いや低グレードタイプや高グレードタイプなど様々なものが存在するので、どれを使用するのか、4Mの視点で考えてみましょう
求められる性能
ここでは先ほど挙げた求められる性能の中で、品質に関わる最も重要な点である”曲げ応力に対する強度と耐久力”を4Mの視点で整理します
Man (人)
この例でのMan (人)は釣竿を作る作業者を表します
釣竿を作る作業者のレベルで強度が2倍も3倍も変わるということは、なくはないでしょうが、大量生産する上で作業者を選べないことが想定されるため、この例ではManは重要な要素ではありません
Machine (機械)
この例でのMachine (機械)は釣竿を作る機械を指します
釣竿はCFRPのシートワインディング法という製法で作られます
詳しくは下記の記事で紹介しています
シートワインディング法において、作る機械によって強度や耐久性が大幅に変わることは考えにくいため、この例ではMachine (機械)は重要ではありません
Material (材料)
この例でのMaterial (材料)は、CFRPのグレード、つまり弾性率や強度を指します
求められる性能は曲げ応力に対する強度や耐久性なので、この例でのMaterialは非常に重要と言えます
Method (方法)
この例でのMethod (方法)は、設計の形状である円筒の肉厚や外径を指します
設計形状は、曲げ応力に対する強度や耐久性に大きく影響するため、非常に重要となります
結論
釣竿の強度の例では4Mの中のMaterial (材料)とMethod(方法)が重要であることがわかりました
4Mの視点で整理した結論として、二つの選択肢に絞ることができます
A: 材料を高性能なものを使用し、必要な強度を満たす
B: 釣竿の設計形状を最適化し、必要な強度を満たす
です
③要求を満たす材料を複数ピックアップ
①要求される性能を洗い出す
②4Mの視点で材料の要求を明確化
というフローを経て材料をおおまかに絞り込めたと思います
ここで、実際に要求を満たす材料を探していきます
探す方法は主に3つあります
素材メーカーから材料情報を入手
すでに関係のある素材メーカーなら、営業担当者に連絡し情報を入手しましょう
関係のある素材メーカーがない場合は、直接メーカーのホームページから連絡したり、材料の技術展示会に赴くことで、面識を作りましょう
商社に材料探索を依頼
商社とは、自社で製品を作らず、国内外から材料や製品を調達し、それを販売する企業のことです
材料関係の商社は得意分野がはっきりしていることが多いため、金属材料に強い商社・プラスチックに強い商社などが存在します
目的の材料に強そうな商社にコンタクトを取りましょう
JIS規格から探す
JIS規格には、各材料の化学成分・製造方法・引張強度などの機械的性質などが記載されています
すぐに探すことができる手軽な方法なので、まずはJIS規格から探してみてから商社や素材メーカーにコンタクトをとることがおすすめです
④QCDESに基づいて材料を選択する
複数ピックアップした材料から、材料を選択する際に重要な点がQCDESです
QCDESはQuality・Cost・Deliverly・Environment・Safeの頭文字を繋げた用語です
私の考えとしては、最優先するのは品質です
品質がばらついて、不良品が出てしまっては、①~③で検討したことが全く意味をなさなくなるので、品質は非常に重要です
ただ、品質が安定するかどうかは事前にわからないことが多いので、難しい点でもあります
それ以外の、コスト(材料代・加工代)は目標の数値を満たすのか・納期は生産日程を守れるのか・環境にやさしい材料か・安全性を担保できるかなど、様々な側面を考慮して材料を決定します
まとめ
- 材料選択のフロー①要求される性能を洗い出す
- 材料選択のフロー②4M(Man, Machine, Material, Method)の視点で要求される性能を明確化
- 材料選択のフロー③要求を満たす材料を複数ピックアップ 具体的な方法は・素材メーカーから材料情報を入手・商社に材料探索を依頼・JIS規格から探す
- 材料選択のフロー④QCDESに基づいて材料を決定する