炭素繊維強化複合材料のすごさ!CFRPとCFRTPの力学的特性
技術ブロガーのスーです
本記事では炭素繊維強化複合材料の力学的特性について紹介します
私はスポーツ用品を作る会社でCFRP(主にプリプレグ)を用いた機械設計をしています
CFRP・CFRTPを用いた設計には力学的特性の知識を持っていたほうが良いです
CFRPは異方性材料のため扱いが難しいですが、非常に優れた機械的特性を有するため部品の軽量化や強度アップに貢献します
本記事では、
「CFRPの力学的特性の特徴って何?」
「CFRPの異方性に対するメリット・デメリットは?」
「異方性を考慮した設計って?
「CFRPの引張強度・圧縮強度・耐疲労性について知りたい!」
「CFRTPの力学的特性について知りたい!」
という疑問にお答えします
- 1方向CFRPの異方性とは
- CFRPの力学的な特徴
- CFRTPの力学的な特徴
CFRPにおける力学的特性の異方性って何?
1方向CFRPの異方性とは
CFRPにおける力学的特性を語る上で最も重要な点は異方性です
1方向のCFRPの場合、上の図でいう負荷方向がAかBで強度や弾性率がまるっきり違います
繊維方向に対して平行な方向(上図負荷A)には、炭素繊維の特性がMAXで機能します
それに対して繊維方向に対して直角な方向への負荷(上図負荷B)には最も弾性率・強度共に低い値を示します
従って、CFRPの部品はあらゆる方向の繊維が積層されて作られるのが一般的です
では繊維方向に対する負荷方向の違いで、力学的特性はどれくらい異なるのでしょうか?
上の表を見ると、繊維方向に対する負荷方向が0°(平行)か90°(垂直)で引張強度と弾性率が全く違います
どうですか?私はこの数字を見たとき、思っていたよりも0°と90°の数字に差があるのだなと感じました
それと同時に、その部品にかかる負荷方向・負荷モードを理解しておかないと積層方向を間違い、部品がすぐに壊れるのでは?という恐怖も感じました
逆に言えば、負荷方向と積層方向を最適な設計にすることができれば、金属やプラスチックなどの等方性材料を使用する場合よりも重量を軽くさせることができます
従って、1方向CFRPの積層で部品を設計する際、その部品にかかる負荷の大きさ・方向を把握しておくことが非常に重要となります
CFRPの力学的特性
CFRPは異方性材料ではありますが、最適な設計ができれば軽量化や強度向上に貢献します
CFRPは異方性材料に加えて、複合材料であるため樹脂量によって材料自体の弾性率や強度が変わってきます
CFRPの力学的特性は樹脂量によって変わる
上のグラフは、横軸にひずみ・縦軸に応力をプロットした応力ひずみ線図の模式図です
上の図の線の傾きは剛性を表しますが、1方向CFRPの剛性はマトリックス樹脂と炭素繊維の剛性の間にきていることがわかります
以下で樹脂と炭素繊維の比率による簡単な剛性・強度算出方法を紹介します
複合材料における、炭素繊維とマトリックス樹脂の比率は体積分率で表され、炭素繊維が占める体積分率をVfで表します
複合材料の引張強度(弾性率)=
強化繊維の引張強度(弾性率) × Vf + 樹脂の引張強度(弾性率) × (1-Vf)
従って、同じ炭素繊維を使用したCFRPであっても樹脂量によって強度・剛性が変化します
では、樹脂量を極限まで減らせな良いのではないか?という質問を持った方、鋭いですね
しかし、樹脂量を減らすことにもデメリットが存在します
それは、成形性が悪くなってしまったり、樹脂同士の密着が悪くなり品質低下を招くことがあります
- 複合材料としての機械的な特性が高くなる
- 部品の軽量化
- 成形性が悪くなる
- 外観不良
- 部品としての強度低下(密着が悪くなる場合)
引張特性
引用: CFRP 炭素繊維強化プラスチック | TAKIGEN | タキゲン製造株式会社
引張特性は炭素繊維の優れた比強度・比剛性に起因して、優れた特性を示します
上のグラフは横軸に比弾性率・縦軸に比強度をプロットした図です
ガラス繊維で強化されたGFRPやチタン・ステンレスなどの金属材料よりも優れた引張特性を示すことがわかりますね
圧縮特性
CFRPの圧縮強度は引張強度の6~7割程度です
これは他の繊維強化複合材料と比較すると、比較的高い数字です
圧縮強度/引張強度比が高いことも、CFRPが構造材料として使用される1要因でもあります
引張特性と同様に、圧縮特性も基本的には繊維の特性に起因します
例えば、ボロン・アルミナ・ガラスなど単繊維の状態で圧縮強度が高いものは複合材料でも高い数字を示す傾向があります
耐疲労性
CFRPは耐疲労性にも優れます
材料の疲労特性を表すグラフとして最も代表的なものがS-N線図です
S-N線図は別記事で詳しく解説しているので、気になる方はチェックしてみて下さい!
CFRPの疲労特性は
- 疲労限度が高い
- 疲労限度/引張強度の割合が高い
- S-N線図の傾きが小さい
という特徴があります
CFRPの疲労限度は1000MPa近くあり、かなり高い値を示します
また、疲労限度/引張強度の割合は、金属材料ではざっくり0.5が目安です
ただ引張強度が1500MPaを超えるような高強度鋼では、疲労限度/引張強度の割合が低くなります
それに対してCFRPは疲労限度/引張強度の割合が0.8とダントツで高いことが特徴です
このようにCFRPは金属材料と比較して耐疲労性に優れるため、航空機などの部品がアルミ合金からCFRPに置き換わっています
振動減衰性
振動減衰係数は、大きいと速やかに振動を減衰し共振問題を避けることができます
一般的に、弾性率が高いと振動減衰係数は小さくなり、低いと振動減衰係数は大きくなります
例えば、ゴムは弾性率が低いので振動減衰係数は高く、鉄は弾性率が高いので振動減衰係数は低いというふうになります
では、鉄よりも弾性率の高いCFRPは振動減衰係数がさらに低いのでしょうか?
答えは否、CFRPの振動減衰係数は鉄の5倍程度であるということが実験からわかっています
要因の一つとして、CFRPは炭素繊維とマトリックス樹脂の複合材料であるためマトリックス樹脂の振動減衰係数の高さがCFRPの振動減衰係数を高めることに貢献していると考えられています
従って、CFRPは金属材料よりも高い振動減衰係数であるため、構造材料の性能としても高く評価されています
CFRTPの力学的特性
CFRTPはほとんどの場合、短くカットされた炭素繊維と熱可塑性樹脂が混錬されたペレットを中間基材とし、射出成型で成型されます
CFRTPの力学的特性を短繊維ペレット・長繊維ペレットに大別し、CFRPを比較対象に入れながら説明していきます
長繊維ペレットとは、連続繊維束に樹脂を含侵させた後、3~24mmにカットして作られるペレットのことをいいます
製造方法から、長繊維ペレット内の繊維はペレットと同一長さかつ、同一方向を向いているため短繊維ペレットよりも優れた力学的特性を示します
この表は短繊維ペレット成型品・長繊維ペレット成型品・1方向CFRP成型品それぞれの材料情報や力学的特性をまとめたものです
ペレットに使用されるマトリックス樹脂は、力学的特性の高いナイロン6で比較しています
一方1方向CFRPの樹脂も、力学的特性や繊維との接着力が高いエポキシ樹脂で比較しています
CFRTPの中間基材であるペレットは製法の都合上繊維含有率は高くて30%くらいまでが一般的です
一方CFRPは表に示したものは繊維含有率60%ですが、低樹脂タイプのプリプレグであれば、繊維含有率が80%程度のものまであります
加えて、CFRTPは繊維方向がランダム(等方性材料)なので引張方向に対する弾性率や強度は1方向CFRPに劣ります
結果、上の表のように例え長繊維ペレットであっても曲げ強度は1方向CFRPに対して1/5以下。曲げ弾性率は1/6以下という数字を示します。
では、全て1方向CFRPでよいのでは?という疑問が生じます
CFRTPにもメリットはたくさんあって、
- 量産性が高い
- リサイクル可
- 耐衝撃性が高い
などが挙げられます
その部品に対して何が求められるのかを考え、材料を選定していく必要があります
↓CFRPとCFRTPの比較は下記事でも解説しています
まとめ
- CFRPの力学的特性において最も重要な点は異方性であり、繊維方向と負荷方向によって強度や弾性率が劇的に変わる
- 1方向CFRPの積層による設計において重要な点は、部品にかかる負荷の大きさや方向を理解すること
- CFRPは炭素繊維とマトリックス樹脂の複合材料であるため、強度や弾性率は繊維含有率に依存する
- CFRPの引張強度・圧縮強度・耐疲労性・振動減衰係数は金属材料よりも優れる
- CFRTPはペレットを中間基材とした射出成型が主体であり、繊維はランダムに配置されるため等方性を示す
- CFRTPにおけるペレットは力学的特性の高い長繊維タイプもあるが、力学的特性はCFRPに劣る