機械図面:寸法記入の疑問
技術ブロガーのスーです。
本記事では機械部品の図面における、寸法記入の疑問に対して解説をしていきます
「寸法を振りたいけど、どこに寸法を記入すれば良いかわからない」
「図面の寸法記入においてやってはいけないこととは?」
「設計者の意図がわかるような図面を作りたい」
という疑問にお答えします
本記事を書く上で参考にした書籍↓
- 部品図面における寸法の記入方法
- 寸法記入のタブー
- 寸法を記入するべき場所(設計者の意図)
図面の寸法記入の疑問
何のために図面を書くの?
「そもそも何のために図面を描くのか?」
という疑問を機械設計者なら一度は考えたことがあるのではないでしょうか
図面を書く目的は
の3点です。
もっというと、これらの最終目的はその部品を量産することです
従って図面にとって重要なことは、誰が見てもわかりやすく・設計者の意図が汲み取ることができることです
どこに寸法を記入すればよいの?
皆さんは上写真のような部品に対してどこに寸法を記入しますか?
答えは
この形状を見ただけではわからない!
です
先ほども書きましたが、図面には設計者の意図を反映させる必要があります。
例えば、上の矢印部分に何かほかの部品が勘合する場合はこの部分の寸法が重要となります。
ここが重要な寸法なんだ!
と作り手に伝わるような寸法指示が求められます
では具体的にどのように寸法記入していけばよいのでしょうか?
本記事ではその基本を解説していきます!
寸法記入の基本
精度が必要な場所に寸法を記入する!
この意識が最も重要です
この意識さえ徹底されていれば、自然と設計者の意図が反映される図面となります
具体例を用いて説明していきます
前提条件
JIS規格普通公差中級
100→±0.3
40→±0.3
20→±0.2
(A)の場合
全長以外の寸法に対しては寸法が記入されているため、それらの寸法には普通公差が適用されます
全長は、横方向の20, 40, 20, 20の寸法に依存することになるのでそれらの普通公差の積み上げによって
20±0.2 | 40±0.3 | 20±0.2 | 20±0.2 | 合計 | |
最大許容寸法 | 20.2 | 40.3 | 20.2 | 20.2 | 100.9 |
最小許容寸法 | 18.8 | 37.7 | 18.8 | 18.8 | 90.1 |
全長の”100″という寸法は±0.9を許容することになります
(B)の場合
(B)の場合は全長寸法の”100″が記入されているため、普通公差の±0.3が適用されます
一方で一番左の”20″は参照寸法となるので、(A)の場合よりも許容寸法が大きくなります
(C)の場合
(C)の場合、寸法の記入場所は(B)と同じですが、40に+0.2-0の公差が記入してあります
この場合、”40″の部分はほかの部品が勘合するなどの理由でこの公差内で加工してほしい!というメッセージが伺えます
- (A)の図面: 各寸法が重要で全長はそこまで重要ではないよ
- (B)の図面: 全長の寸法と右3つの寸法が重要だよ
- (C)の図面: 全長の寸法と右3つの寸法が重要で、”40″の寸法が特に重要だよ
寸法記入のステップ1: 基準面を決めよう!
基準面を決める理由
基準面がないと…
- 本来は必要のない箇所にも厳しい公差を適用しなければならなくなる
- 組立・調整の段階で現物に合わせて時間をかけて作業が必要・再加工が必要になる
⇒基準を決めることでムダをなくす!
⇒効率よく物を作る!
3方向の基準面を決めよう
高さ方向
通常底面を基準面とする
底面をベース面やフレームなどにおいて使用することが多いため
前後・左右方向
理想は、会社や部門ごとに基準面を決めておく
標準化しておけば、設計者が変わっても基準が統一された図面を書くことができる!
基準面によって寸法記入は変わる
(A) 底面・左端面基準の寸法記入
(B) 上面・右端面基準の寸法記入
寸法記入のステップ2: 寸法記入法を決める!
基準を決めた後は寸法記入法を決めます
寸法記入法の選択によって、図面のメッセージ性が大きく変わる場合があります
寸法記入法の種類と選択方法について解説していきます!
直列寸法記入法と並列寸法記入法
直列寸法記入法と並列寸法記入法の違い
(A) 直列寸法記入法
(B) 並列寸法記入法
直列寸法記入法と並列寸法記入法の選択方法
上の図で示した直列寸法記入法と並列寸法記入法のどちらで寸法を記入すればよいのでしょうか?
この答えもどちらが正解ということはなく、その部品にとって重要な寸法はどこか?
を考えればおのずと決定できます
例えば上の図の丸で囲まれた、A点の左端面からの寸法について考えてみましょう
(A)の直列寸法記入法の場合、20の普通公差が±0.2、40の普通公差が±0.3です
従って、A点の左端面からの距離は60±0.5となります
一方で(B)の並列寸法記入法の場合、60の普通公差は±0.3です
従って、A点の左端面からの距離は60±0.3となります
この部品にとってA点の左端面からの距離が重要な場合は、並列寸法記入法が適している言えます
寸法記入のタブー!
寸法記入におけるタブーを紹介します
下記で紹介する図面の寸法記入において”やってはいけないこと”には共通点があります
それは、読み手に不親切であることです
誰がみてもわかりやすい図面にするために下記のタブー事例は避けましょう!
正面図以外にバラバラに寸法記入する
上の図は悪い例です
赤丸で示した寸法は、正面図に記入できる寸法です
側面図に記入するとあちこち目線が行ってしまい読みにくい図面となってしまいます
上の例で行くと側面図に記入する寸法は奥行き寸法のみにしましょう
二重寸法は厳禁!
二重寸法がダメである理由を説明します
上に図面に対してJIS普通公差の中級指示が出ているとします
(ア) 100±0.3
(イ) 20±0.2, 40±0.3, 20±0.2, 20±0.2 従って全長寸法は100±0.9
となり、全長100に対する公差に矛盾が生じるためです
重複寸法は厳禁!
上の図で丸で囲まれた寸法は、それぞれ正面図と側面図で重複した寸法です
仮に赤丸で示された寸法が30⇒35に変更になった場合を考えて見ましょう
その場合正面図と側面図の寸法をどちらも訂正する必要があり、訂正漏れのリスクがあります
従って、重複寸法の記載は禁止されています
計算で求める必要がある寸法は厳禁!
上図のように、全長の寸法を計算しなければならない表記は避けましょう
対応としては下図のように参照寸法で記載しましょう
かといって全てに参照寸法を記載しては大変なので、特に重要な高さ・幅・奥行きの最大寸法は計算しなくてもわかるようにしておくとよいです
この記事のまとめ
- 寸法記入で設計者の意図を示す!
- 基本的には精度が要求される箇所に寸法を記入する
- 寸法記入のステップ1: 基準面を決める
- 寸法記入のステップ2: 寸法記入法を決める(直列寸法記入法 or 並列寸法記入法)
- バラバラな寸法記入・二重寸法・重複寸法・わかりにくい寸法表記には気を付ける