【図解!】鉄鋼材料の基礎~特殊鋼とは?ステンレス鋼編~
技術ブロガーのスーです
私の本業は大手製造メーカーの現役機械設計エンジニアです
本業では、CFRPやプラスチック材料を用いたスポーツ用品の設計・開発を行っています
当ブログは現役機械設計エンジニアである私が日々の設計業務で感じた疑問を勉強し、超絶噛み砕いて解説する技術ブログです!
図を用いてわかりやすく解説していきます!
皆さんステンレス鋼を機械設計で使用していますか?
私は実務で使用していますが、ステンレス鋼各種について深く理解しているわけではありませんでした
マルテンサイト鋼・オーステナイト鋼など何やら小難しい名前が並んでいるため、理解するのにハードルが高いのかもしれません
そこで、本記事ではステンレス鋼の定義や各ステンレス鋼の特徴の整理、そして使い分けについて解説します!
ステンレス鋼の定義は?
ステンレス鋼の種類って?
各ステンレス鋼の特徴は?
ステンレス鋼の材料記号は?
ステンレス鋼の使い分けは?
といった疑問にお答えします!
鉄鋼材料の特徴や種類は下記ブログで解説しています↓
合金鋼・工具鋼の特徴や種類は下記ブログで解説しています↓
ステンレス鋼の定義と特徴
ステンレス鋼の定義はズバリ…
炭素量が1.2%以下+クロム量が10.5%以上の鋼
です
ステンレス鋼の特徴は何と言っても錆びにくいことです
ステンレス鋼を使用する最大の理由の一つです
この錆びにくいという性質は、高いクロムの含有量に起因します
もう一つの特徴は強度が高いことです
合金鋼と比較しても同等かそれ以上の強度を有しているので、耐食性の高さと合わさって、ステンレス鋼は非常に需要の高い機械材料です
鉄鋼材料の中のステンレス鋼の位置づけ
鉄鋼材料は普通鋼・特殊鋼・鋳鉄の三つに分類されます
特殊鋼はさらに合金鋼・工具鋼・特殊用途鋼の三つに分類され、ステンレス鋼は特殊用途鋼の一種です
特殊用途鋼は、他にばね材として使用されるばね鋼や、ピアノ線などが含まれます
ステンレス鋼はその高い性能から、多岐にわたり使用されているので”特殊用途”という感じがしないので、覚えにくいですが、頭に入れておきましょう
ステンレス鋼の分類
ステンレス鋼はマルテンサイト系ステンレス鋼・フェライト系ステンレス鋼・オーステナイト系ステンレス鋼・析出硬化系ステンレス鋼・二相系ステンレス鋼の5つに分類されます
~系のところに来る言葉は金属組織の名前を表します
金属組織は、熱処理と呼ばれる処理によって自在に変化させることが可能であり、組織の違いによって材料の性能も変化します
これによって、同じステンレス鋼であっても異なる性能を得ることができます
各ステンレス鋼については、後に詳しく解説しますが、簡単にまとめておきます
マルテンサイト系ステンレス鋼
マルテンサイト系ステンレス鋼は高強度・高硬度であり、機械材料として多岐にわたり使用されます
その中でも最大の特徴は、耐摩耗性です
優れた耐摩耗性から、歯車の材料としても使用されます
マルテンサイト系ステンレス鋼の欠点は、他のステンレス鋼と比較して耐食性が劣ることです
これは、他のステンレス鋼と比較してクロム含有量が低いことに起因します
耐食性が求められる環境で使用する際は注意が必要です
フェライト系ステンレス鋼
フェライト系ステンレス鋼の最大の特徴は、他のステンレス鋼と比較して安価であることです
欠点としては、比較的強度が低いことが挙げられます
フェライト系ステンレス鋼が安価である理由の一つとして、強度・硬度が比較的低いので加工性が良いことが挙げられます
従って、強度が低いという欠点のおかげで、安価という特徴が生まれているということになります
オーステナイト系ステンレス鋼
オーステナイト系ステンレス鋼の最大の特徴は、耐食性の高さです
これは、クロム含有量が高いことに加えて、ニッケルが添加されていることに起因します
その高い耐食性から、衛生面が求められる食品加工機械や医療機器などにも利用されます
欠点は応力腐食割れを起こしやすいことです
理由は、クロムとニッケルが共存していることに起因して、応力が加わると腐食が起こりやすいとされています
析出硬化系ステンレス鋼
析出硬化系ステンレス鋼の最大の特徴は、その高い強度です
析出物が変形を抑制することによって強度が高まります
析出硬化系ステンレス鋼の欠点は、他のステンレス鋼と比較して高価であることです
高価である理由は、製造プロセスの複雑さや、加工性の悪さが挙げられます
二相系ステンレス鋼
二相系ステンレス鋼の特徴は、バランスの良い性能です
強度や耐食性がバランスよく高いです
欠点は耐熱性の低さです
高温で脆化するという性質を有しているため、高温環境下での使用は注意が必要です
ステンレス鋼の材料記号
ステンレス鋼の材料記号について解説します
① SUS
ステンレス鋼のことを略してSUSと呼ぶことが多いですが、SUSって何の頭文字か知っていますか?
S: Steel
U: Use
S: Stainless
でSUSです!
従って、ステンレス鋼は全て最初にSUSという三文字がつきます
②鋼種番号
鋼種番号は日本だと、JIS規格で定められています
鋼種番号によって、各ステンレス鋼の化学成分が決められており、この番号によって鋼種が区別されます
鋼種番号は、規格によって変わるため、海外の人と話す際は注意が必要です
③形状記号
あまり見慣れないかもしれませんが、末尾に形状を表すアルファベットを付ける場合があります
形状は断面形状です
マルテンサイト系ステンレス鋼とは?
マルテンサイト系ステンレス鋼とは
マルテンサイト組織を有する鋼
です
熱処理によって、マルテンサイト変態という変態が起こり、マルテンサイト組織が発現します
代表鋼種はSUS410やSUS420が挙げられます
クロムを13%程度含むため、別名13クロムステンレスとも呼ばれます
マルテンサイト系ステンレス鋼の特徴と欠点を整理しておきます
高強度・高硬度
マルテンサイト組織は硬く強いです
それに起因して、高強度・高硬度を有します
耐摩耗性が高い
高強度・高硬度であることによって、表面の損傷に対して強いです
この特性が、高い耐摩耗性を実現させます
コストパフォーマンス
マルテンサイト系ステンレス鋼はステンレス鋼の中では、比較的安価なため、様々な機械部品に使用されます
比較的耐食性が低い
マルテンサイト系ステンレス鋼は、クロム含有量が比較的低いことに起因して、他のステンレス鋼よりは耐食性が低いです
溶接性が低い
溶接時に、高温にさらされることによって局所的に再度マルテンサイト変態が起こることがあります
これによって、局所的に硬く脆くなってしまいます
低温脆化
低温で脆くなるという特性を持っているため、注意しましょう
フェライト系ステンレス鋼とは?
フェライト系ステンレス鋼とは
フェライト組織を有するステンレス鋼
です
熱処理によって、変態は起こらず再結晶が促進されます
代表鋼種にはSUS430などがあります
18%程度のクロムを有するため、別名18クロムステンレスとも呼ばれます
フェライト系ステンレス鋼の特徴と欠点を整理します
安価
フェライト系ステンレス鋼はステンレス鋼の中で最も安価です
その理由としては、材料の組成・製造プロセスが簡単・大量生産されていることなどが挙げられます
加工性が良い
ステンレス鋼の中では、強度・硬度がそこまで高くないため、加工性が良いことが特徴の一つです
比較的耐食性が高い
オーステナイト系ステンレス鋼ほどではありませんが、クロムを多量に含んでいるため、比較的耐食性が高いです
比較的強度が低い
結晶構造や、組成に起因して、ステンレス鋼の中では最も強度が低いです
熱処理で硬化しない
熱処理が効かないため、熱処理による強度・硬度の向上は期待できません
耐熱性に限界がある
475℃を超えると、力学的特性が低下するため注意が必要です
オーステナイト系ステンレス鋼とは?
オーステナイト系ステンレス鋼とは
オーステナイト組織を有する鋼
です
代表鋼種はSUS304やSUS316が挙げられます
先に紹介したマルテンサイト系ステンレス鋼やフェライト系ステンレス鋼の結晶構造はBCC構造に対して、オーステナイト系ステンレス鋼はFCC構造を有します
これによって、先の二つとは異なる特性を示します
また、18%程度のクロムと8%程度のニッケルを含むため、18-8ステンレスとも呼ばれます
オーステナイト系ステンレス鋼の特徴と欠点を整理します
耐食性が高い
多量のクロムに加え、ニッケルを含むため、ステンレス鋼の中で最も高い耐食性を有します
非磁性
FCC構造であることに由来して、鉄鋼材料では珍しい非磁性を示します
延性・靭性に優れる
延性・靭性に優れる特性も結晶構造がFCC構造であることに起因します
応力腐食割れを起こす
応力腐食割れを起こすと、強度が大幅に低下します
熱処理で硬化しない
熱処理が効かないため、熱処理による強度・硬度の向上は期待できません
比較的高価
Mo(モリブデン)などの高価な合金元素が添加されることに起因します
析出硬化系ステンレス鋼とは?
析出硬化系ステンレス鋼とは
オーステナイト相に他の金属組織を析出させたステンレス鋼
です
代表鋼種はSUS630などが挙げられます
析出硬化系ステンレス鋼の特徴と欠点を整理します
超高強度
析出物によって変形が抑制されるため、ステンレス鋼の中で最も高い強度を有します
耐食性に優れる
オーステナイト系ステンレス鋼よりは耐食性が低いですが、比較的高い耐食性を有します
加工性
加工後に再度析出硬化処理を行うことができるため、高強度を有しながら加工性も良いという性能を有します
コストが高い
析出硬化処理などの複雑な製造プロセスがコストを高めます
熱処理が複雑
製造プロセスにおける熱処理が複雑であるという欠点があります
低温脆化
低温で脆化するため、注意が必要です
二相系ステンレス鋼とは?
二相系ステンレス鋼とは
オーステナイト相とフェライト相からなるステンレス鋼
です
代表鋼種はSUS329J1が挙げられます
二相系ステンレス鋼の特徴と欠点を整理します
高強度
オーステナイト相とフェライト相を共に有することで、優れた強度延性バランスを有します
耐食性に優れる
オーステナイト相を有しているため、優れた耐食性を示します
溶接性
炭素含有量が比較的低いことに起因して、優れた溶接性を有します
加工性が悪い
オーステナイト相とフェライト相を共に有することで、均一な加工にならない場合があります
高温で脆化
高温で脆化するため、注意が必要です
まとめ
- ステンレス鋼とは、炭素量が1.2%以下+クロム量が10.5%以上の鋼
- ステンレス鋼最大の特徴は、優れた耐食性(錆びにくい)
- ステンレス鋼は特殊用途鋼の一種
- マルテンサイト系ステンレス鋼は、マルテンサイト組織を有する鋼であり、その特徴は優れた耐摩耗性、欠点は比較的耐食性が低いこと
- フェライト系ステンレス鋼は、フェライト組織を有する鋼であり、その特徴は安価、欠点は強度が低いこと
- オーステナイト系ステンレス鋼は、オーステナイト組織を有する鋼であり、その特徴は優れた耐食性、欠点は応力腐食割れを起こすこと
- 析出硬化系ステンレス鋼は、オーステナイト相に金属組織を析出させた鋼であり、その特徴は超高強度、欠点は高価であること
- 二相系ステンレス鋼は、オーステナイト相とフェライト相からなる鋼であり、その特徴は高強度、欠点は加工性が悪いこと